宍道湖のウミベアカバハネカクシ

宍道湖のほとりで働くようになって20年近くになる。海岸性甲虫を調査した時に、宍道湖汽水湖だからという理由で調査地点に加えた。湖岸にはウミベアカバハネカクシCafius pectoralis が多い。汽水だからと最初は考えていた。しかし、よく考えると変である。海岸の砂浜であれば、漂着海藻をひっくり返せば、このハネカクシは容易に採集できる。ところが宍道湖の表層は真夏でもほぼ淡水で、海藻は生えていない(近年は水草が増えてきている)。漂着海藻がないので、海岸に多いハエ類も発生しない。海岸とはだいぶ状況が違うのである。ハネカクシは海藻で発生するウジを利用できないではないか。

このことは長年気になっていたが、海浜でウミベアカバハネカクシがハマトビムシを捕食するのを目撃した。ハマトビムシ宍道湖にも多いので、湖岸でもハマトビムシを食べているだろうと予想を立てて、捕食実験をしてみた。実験はシンプルにして、ハマトビムシのみとハマトビムシハネカクシを入れた飼育容器を24時間後に確認したところ、ハマトビムシは全部生きていたが、ハネカクシを入れた方は襲われて(食べられて)生存しなかった。このことから、宍道湖のウミバアカバはハマトビムシを捕食することで生息しているのだろうと考えた。

ごく低塩分の汽水にすむ海岸性ハネカクシは例が少ないと思う。その起源として、海岸に進出する初期の段階、あるいは海岸から二次的に入ってきた可能性が考えられた。最近、Cafiusの分子系統が報告されたが、近縁種は全て海岸性種であるため、二次的に汽水に入ってきたと考えるのが妥当である。

Marine rove beetles in a low-salinity lake: Cafius pectoralis (Coleoptera: Staphylinidae) prey on beach hopper in brackish water.

Entomological Science (2022) 25, e12504

f:id:hamusi:20210712095646j:plain