中島 淳(2015)「湿地帯中毒 身近な魚の自然史研究」.東海大学出版会,秦野.
まさにフィールドの生物学というシリーズにふさわしい一冊である.彼の学位論文のテーマであるカマツカの自然史,スジシマドジョウ分類学的研究,そして湿地にすむ生き物に対する思い,が詰まっている.フィールドで得た情報を形にするのは大変なことだが,失敗しながらも,学術論文として公表してきたことは,賞賛されるべきことだろう.フィールド研究や調査に携わる人たちにぜひ読んでもらいたい.そして,この本を励みに少しでもいいから,知見を世に出すこと実践してもらいたいと思った.
気づいた点を少し加えると,口絵は余白が多くてもったいない.湿地帯生物で埋めてあると良かった.131ページの陸水系接続イベントに関しては,比較的時間の短いスケールのイベントだけ取り上げているが,鮮新世更新世の10-100万年単位の地殻変動は,地形そのものが変化するという点で最も「効いている」イベントではないだろうか.分水嶺の消滅や形成にも大きく関わる変動であり,琵琶湖など内陸盆地の形成もこの変動そのものである.現在の日本の淡水魚類相形成にもっとも重要な役割を果たした変動と考えて良いだろう.