カタキバゴミムシ

カタキバゴミムシに興味を持ったきっかけは、北大で行われた昆虫学会の小集会でエサキマルキバゴミムシの巻貝捕食の話を聞いたことだった。殻の巻に沿って丁寧にわり、中身を食べる。大顎も左右不対象で巻きに対応しているという話だったかと思う。面白い形態と生態だけど、北海道の虫なので、観察する機会もないと、その時は思った。

それからだいぶ経って、職場周辺でたまにみるヨツモンカタキバゴミムシがエサキマルキバに近縁だということに気づき、文献を調べてみた。American Beetlesには大顎形態から当然巻貝を捕食するだろうけど、報告がないこと、他のものも食べるようなことが書いてあった。

2020年夏、コロナの影響もあり、遠征の機会もなくなったので、継続的に灯火採集をすることにした。ヨツモンカタキバゴミムシも採れたので、タッパーに入れて小さいカタツムリを与えてみた。まだ容器に慣れていないせいか、食べる感じはしなかったが、そのまま置いておいた。そして、後でみたら見事に殻を割って食べていることに気づいた。「これは論文のネタになるっ」と思い、本格的に調べてみることにした。

成虫集めは灯火頼りで、数日に一度、採れるぐらいだったが、成虫は何度でも食べてくれるので、実験はやりやすかった。タッパーに1個体ずつ、湿らせたキムワイプを敷き、カタツムリを与えるとすぐに捕食行動を開始した。幸い、この何年か前に陸貝と淡水貝の調査をしてもらっていたので、貝を集めるための情報は十分だった。面白いと思ったのは、淡水貝もよく食べたこと。ヨツモンカタキバは湿った草地(踏んでも乾いているぐらいのイメージ)に生息する種とされていて、実際、採集場所の環境は田んぼと水路と堤防なので、山のカタツムリは普段食べていないことは容易に想像できた。水田や水路の巻貝は水位変動で干上がったり、貝自ら陸地に逃避することも多いので、捕食される機会は野外でも実際にあるのだと思う。

色々発見があったが、逆巻きの貝はどうするのかは興味があった。サカマキガイは殻が薄いので割ることは容易である。しかし、割り始めの定位置(右巻きでは殻口の外側)がないので、殻口の下側から破壊し、上に向かって割っていた。おそらくより殻の厚い逆巻きの貝は捕食できないのではないかと予想する。

殻が厚い貝は割るのが大変で、時間もかかり、途中で止めることもあった。蓋の存在も重要で、特に蓋が殻口をピッタリふさぐミズゴマツボは攻略できなかった。

データを分析するには、分析することを前提にデータを取る必要があり、百戦錬磨の共著者の協力をもらい、進めた。Erwinの追悼号に投稿したのは、彼がカタキバゴミムシを記載していたことも関係する。

なお、論文で実験は室内実験と書いたが、具体的には事務室である。仕事をしながら、3時間の観察をした。覗き込んでも気にせず、日中に堂々と捕食してくれた、このゴミムシに感謝である。