身近な生物の行動を研究してみようと思ったのは、甲虫学会で甲虫の生態のシンポジウムを企画したとき、毛虫の毛の意義についての実験(毛のあるなしでクロカタビロオサムシの捕食効率が異なる)の話を聞いてからだと思う。
この数年報告した論文をメモしておきたい。なお、これら全て共同研究による成果を報告したものです。共著者に感謝です。
ケシゲンゴロウの幼虫の撮影をしたくて飼っていたときに偶然発見した。長年の謎でもあった、ケシゲンゴロウ幼虫の頭部にある突起(と大顎)の使い方がわかり、とても楽しい研究だった。
1990年代からゲンゴロウを見てきたが、ケシゲンゴロウはちょっと良い環境であれば、どこにでもいる種だった。しかし、現在は激減していて、保全が急務となっている。
2.泳ぐヨコミゾドロムシの幼虫
これもヨコミゾドロムシ幼虫を撮影しているときに気づいた。泳がない水生甲虫であるヒメドロムシの幼虫が泳ぐのはとても意外だった。その一方で、あの平たい体型が関係していると考えられ、なるほどと思った。系統関係と幼虫形態を絡めて進化についても少し議論した。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ens.12333
ヨコミゾドロムシ幼虫を採集した地点は個体数も多かったので、生活史についても調査してもらい、論文になった。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ens.12442
3.イネを登るヒメモノアラガイ
田んぼの講師で何度が行った水田は、ヒメモノアラガイとガムシがとても多い場所だった。イネに黒いものがたくさんくっついているのを見て、最初はイネクビボソハムシの幼虫(稲泥負虫)かと思った。よく見たら、ヒメモノアラガイで、水中にガムシの幼虫がたくさんいたので、捕食者からの逃避という仮説を立てて実験を行った。ヒメモノアラガイはガムシに捕食された仲間の匂いに強く反応した。
https://academic.oup.com/biolinnean/article/130/4/751/5864573
4.カタキバゴミムシが巻貝捕食者であることの観察
スナハラゴミムシの仲間はカタツムリなどの陸生巻貝を食べることが知られていたが、実際に詳しく観察した報告は一部の種だけだった。カタキバゴミムシ類も大顎形態から巻貝食いであることが予想されていたが、報告はなかった。職場でヨツモンカタキバゴミムシが灯火で採集できることがわかっていたので、実際に観察してみた。意外だったのは淡水巻貝も捕食したことだった。
5.イモムシの「泳ぐ」行動の発見
野外作業をしている時に、たまたま気づいた。観察する種を増やしたり、成長の過程で水に対する反応の変化を調べた。先日、公表になった。
Active behaviour of terrestrial caterpillars on the water surface [PeerJ]
最近は、身近にいる生物の秘めたる行動や、多分そうだと言われているけど誰も記載していない行動を調べることが面白いです。地域生物相の解明や分類、生物地理など従来のテーマに軸足を置きつつ、行動の研究もしたいです。遠くに出かけることも難しい状況が続いていますので、その点でも身近な生物の研究はやりやすいと考えています。